創業以来、家具用生地に特化

高級家具用生地を製作し続け50年以上を誇るデニッシュアートウィーヴィング社の歴史は、それまでデンマークに息づいていた伝統の手織り生地への畏怖と誇りの象徴であると言っても過言ではないかもしれません。

2名の起業家がデンマーク伝統の手織り生地を手にした2名の起業家

50年以上も昔、2名の起業家がそれまで家内製品として織られていた生地の将来性に着目しました。医師の妻、マリー・クリスチャンセン、そしてデンマーク系アメリカ人のピーター・ケルデンセン。この2名は1949年にDanish Art Weaving の前身であるVævegaarden(ヴァンガーデン)を設立します。

マリーが設立前にコレクションしていたのは1920年代からのデンマーク伝統の織物「olmerdug」(オルマドゥーグ)。

第二次世界大戦中にマリーに出会ったピーター、彼女がコレクションした生地に魅了された彼はその生地を復刻し、もう一度世に広めようとマリーと共に起業することを決意。ピーターはマリーが所有していた伝統生地に並々ならぬ可能性を感じていたのです。第二次世界大戦が終わり、2名は共同で織物会社を起こします。ですがそのスタートはかなり苦しいものでした。その苦しさの原因は原材料不足。伝統生地の素材はウール。そのウール素材の調達はウール素材を取り扱う会社がまったくなかった創業の地、デンマークの北の端地では困難を極めたのです。

そこで、ピーターが考えたの奇策は「コーヒー豆とウール素材をスワップ」。戦後、デンマークではコーヒー豆はウール素材よりも手に入りづらく、コーヒー好きのデンマーク人にとっては何よりも欲しい商品だったのです。とっても貴重となったコーヒー豆をピーターはあらゆるコネクションを駆使し、手に入れることに成功し、そのコーヒー豆との物々交換で手に入れたウール素材を使い、Danish Art Weavingでの最初の生地が織られました。

家内手工業としてスタート

設立当初は原材料のウール洗浄や染工程など、すべて創業の地、ブランダスレブ市にある小さな工場の地下で行っていました。そして織りに至って地元の農家の人にお願いし、手の空いた時間に工場に来てもらいおこなっていました。その後、40名~50名の織り専門の職人を雇い入れ、専業化を進めました。当時の生地は全て手織り。農業を営んでいる人々が冬の収入が減る時期に副業としておこなっていたものに過ぎませんでした。それをマリーとピーターは年中収入の得ることのできる専業の仕事とし育てていったのです。

デンマーク国王からの依頼

会社が軌道に乗り始めたきっかけは共同経営者だったピーター・ケルデンセンの経営手腕。彼はメディアに働きかけるため様々なことをおこないました。工場の横に工場て作った生地を張った家具を売る家具店を作ったり、そして最大の機転は1953年に時のデンマーク国王、フレデリック9世とそのお妃のイングリット女王を工場見学に招待したことです。国王からちょうと新しい生地で張替をお願いしたいと会社に依頼が来ているときだったのです。このことをきっかけに会社は国内中に知られることになりました。

さらなる発展

1957年にピーター・ケルデンセンは会社を売却。2年後にサクシー一家が会社を買い取ることとなり、その後会社は何倍もの規模に成長。輸出も積極的に増やしました。

手織りから機械織りへ移行

最初の機械織機の導入は1972年。それまでは全て手織りで、1日で1人が2Mを織るのに やっとの状況です。1972年に機械織りを導入してからでも複雑な織りは全て手織りでおこなっていました。ですが、それも機械技術の発展により現在では全て機械織りとなっています。機械織りとなった今でも創業当時と変わらずウール素材を採用する生地を多く提供し、伝統的な生地もその中に多く含まれています。

伝統と発展を胸に

機械工の高齢化により自社生産を諦めたのは1996年。現在はデンマークとは違うEU圏内で織られるDanish Art Weavingの生地。織られる場所は変われど、マリーのデンマーク伝統の生地への情熱、そしてピーターのそれを発展させ世に広めたいと思うDNAは今でも色濃くDanish Art Weavingに息づいています。50年以上の織りの歴史を持つ会社の思いは今も昔も同じです。それは、品質、伝統、デザインを守り続ける事。この3つをこれだけ忠実に守り続けている生地会社はデンマーク国内どこを探しても見つける事はできません。



Danish Art Weavingの歴史3